カブールの魅惑的パインジュース
2005-11-14 Mon 23:08


【ERNESTO CAVOUR / "El Vuelo del Picaflor"】(1991)


「はあ?カブールの名盤はあれだろ!」
「いや、やっぱこれだろ!」
「ここの管理人は90年代のアルバムばかり出してネエか?」

罵声が飛んでくるのはわかる。
でも待ってほしい。
いやだから待ってってば。
いたっ。石を投げないで。

日本盤も多く出ているカブールの音源の中からこのアルバムを選んだのには訳があるのだ。
確かに名盤といえる音源は、カブールがハイラスから脱退してソロ活動を始めたLP時代のものにあるのかも知れない。
ことにポリドールのフォルクローレシリーズから出されていたLPに熱い思い入れのある方も多いことだろう。※1・2

しかし思うのだ。
たしかに熱い思いはわかる。
でも初めての時って初々しいけど、まだ硬いよね。
いや、何がとはいわないけど。
いや、そこのあなた。何考えてるの
だからさ。初めてのお使い、とか。
初めての演奏だよ。

その一方で、物事に慣れちゃうと、技術力(テクニック)は上がるけど、初めての時のような新鮮な何かが欠けてしまうことも多いよね。
いや、何がとはいってないって。
いや、そこのあなた。何考えてんの。
何年もたって再レコーディングすると、演奏の技術力も録音の技術力もぐっとあがってるから良さげな録音になっていそうなものだけど、前の録音のときの熱い気持ちや意味合いを見失っちゃって、くだらない演奏になりはてる場合も結構多い。

ところが、エルネスト・カブールは違う
この人、年をとってもあいかわらずスゴイ演奏を繰り広げる。
というか、何でこんなに熱いんだ
…というわけで、このアルバムを選んだわけは、旧録音をはるかに凌ぐこの演奏のパワーだ。
生硬さが感じられる昔のボリビア盤を聴いてから、これ聴くと多分感動するよ。
20曲近い収録曲のCDって、聴いていても集中力が持たなくなって訳がわかんなくなるので本来は大っ嫌いなのだが、このCDは別格だ※3・4

ドイツのレーベルへの録音ということでベスト盤のような選曲
           ↓
どの曲も初レコーディングではないし、ライブでも演奏してるから…
           ↓
演奏の生硬さがとれ、さらに磨きがかかった技術力と表現力で、曲に見合った熱いプレイを繰り広げる…というわけで。

「いやあ、何事も若い時の方が熱いものさ。青春だねえ」
…なんて遠い目をしているお父さん!!
パンツを箸でつままれていないかご用心。
カブールはすでにボリビアの人間国宝的な存在でありながら、守りにはいることをしらず、ますます熱い。
なんか経済的にいろいろ大変みたいな話も聞いたが、ネオ・フォルクローレを切り開いた伝説の巨人はいまだに大きく成長し続けるのだった。※5

ちなみに、日本のフォルクローレファンの間には、CDを単なる「演奏のお手本」としてしか考えない人、あくまでそういう位置づけでしか購入しない人がまれにいるそうだが、そういう視点でカブールのCDを買えば、恥ずかしくなること請け合いだ。
彼は「フォルクローレなるジャンル」を演奏する前に、「オレの歌」を歌っているのである。
チャランゴで。

ものすごい「俺節」である。
「音楽」ってこういうものだったんだなあ…と再認識させられるプリミティヴな感動が詰まったCDだ。
カブールの音楽をまねしようにも、カブールのスタイルのコピーなんてものがいかに無意味なモノかわかるだろう。
フォルクローレ界にはうまいことばがないのだが、サルサでいう「サボール」とかフラメンコでいう「ドゥエンデ」とか、その人のその演奏にしかないパワーとか味といったものが彼にはあるのだ。
彼の音楽は、彼のテクニックのみから来るものなのではなく、彼そのものを表現した音楽なのだから。※6


【注】
※1
筆者はフォルクローレブーム過ぎ去りし80年代中頃、田舎で中学生をしていた。そのころ店頭に忘れ去られた形でひっそり売られていたポリドールの"エルネスト・カブール「伝説のチャランゴ / コンドルは飛んでいく」" でボリビア音楽との衝撃的な出会いを果たした。しかしこれは本国ボリビアではルーチョ・カブール名義のアルバムであるという事実にしばらくして気付くことになる。かわいそうなルーチョ…。

※2
このころ、何の情報も入手できない中学生は悩みに悩んだ末、カブールのLP帯にあった「月刊中南米音楽」という広告の詳細を知るべく、ポリドールに電話をかけた。担当者は「ああ?もう廃刊でしょ。うちとは関係ないから」とのこと。(忙しいんだから電話してくんな、フォルクなんて今さら聴くヤツいないんだよ、ボケ中坊が)という雰囲気たっぷりで、ウブな私は電話したことを激しく後悔した。 

※3
このアルバムの白眉は何といっても、この最高の録音状態でちゃんとルーチョ・カブールのケーナが聴けるところだ。6曲目「LEYENDA DE LA KANTUTA」の妙技を聴け!

※4
あんまりにも生き生きした録音なんで、もしかしたらマルチ録音じゃなくてスタジオライヴに近い形の録音である可能性もありますね。

※5
「神話作るんじゃない」って叱られそうだが、でもこれだけは事実だ。
そりゃあ、まあボリビアで大ヒットするようなラブソングを歌う訳じゃない。私設博物館の件にしろ、ペーニャ・ナイラが閉店してしまった件にしろ、全面的にうまくいっているかどうかといえば、もちろんいろいろある。フォルクローレを体系的に残すための数々の著作活動やらいろいろ大変なようである。しかし、なんかヒット狙えばいいやっていう他のミュージシャンとは一線を画していることは間違いないんじゃないか。
※6
彼の音楽を素朴で美しい音楽と誤解している方も多かろう。そういう曲もあろうが、昭和58年に高場将美氏の訳で出版されたカブールの詞集『歌うキルキンチョ』をご一読されると目から鱗、間違いなしである。下品な表現もたっぷり含んで、そこにあるのは「人生」そのものである。このような本がいっぱい出版されると嬉しいのにね。

【アルバム・データ】
<CD>
ERNESTO CVOUR / "El vuelo del Picaflor"
68.953 (1991)
TROPICAL MUSIC (GERMANY)

1 PADRE VIENTO (Motivo)
2 ROSALIO UVAS (Calnaval)
3 DANZA AGARARIA
4 MATRACA DE UENA Y CHAARANGO (Morenada)
5 CALNAVAL DE SAN LUIS (Carnaaval)
6 LEYENDA DE LA KANTUTA (Motivo)
7 LAS MAMALITAS (Huayn~o)
8 EL VUELO DEL DEL PICAFLOR (Huayn~o)
9 LA YEGUA Y EL ARROYO (Motivo)
10 LA CUECA DETOROZADA (Motivo)
11 JAILON EN CHICHERIA (Carnaval)
12 TRES PASTORES (Bailecitos)
13 CHULUPI (Calnaval)
14 IDA Y VUELTA (Villancico)
15 RIO CHOQUEYAPU (Tonada)
16 BAILECITOS DE SAIRADOS
17 TE AMARE DESPUES DE MUERTO (Tonada)
●このCDが発売された頃は、今はなき池袋のWAVEとかで、たまたまあるかないかみたいな入手方法だったけど、むしろ今の方がネットショップで定番CDとして入手しやすいのではないかな。


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