ルス・デル・アンデの静かな決意
2005-10-09 Sun 02:25

【LUZ DEL ANDE / "Peskha patac mara …"】(1992)

1992年は「コロンブスによるアメリカ大陸到達500周年」ということで、映画・出版・イベント・音楽と多方面で盛り上がった年だ※1

バブル崩壊直後だったが、あのころの日本は、その後の「戦後最大の不況」「いつ夜は明けるのか」なんて状態なんかまだ誰も予想だにしていなくて、今考えると商品企画にもまだまだ勢いがあった時代だ。

ご多分に漏れず、レコード業界もさまざまな企画盤(特にクラシック業界)を出していたようだが※2、「ワールドミュージック」なんてジャンルをでっち上げて、みんなで第3世界の音楽を持ち上げたあの時代に、なぜメジャー各社が「500年…」と名付けられたこの名盤を日本盤としてリリースしなかったのか、理解に苦しむ次第だ※3

さて、ルス・デル・アンデのサウンドを期待してレコードに針を落とすと驚く。

いきなり冒頭2分くらい音楽がないのだ!
ひたすら村の父親と娘の会話が続く。
しかもアイマラ語だ。

しかし、ここにカギが隠されている。
インディオの女の子が「なぜ私たちの村にはクリスマスがないの?」と泣くのに対し、父親が「本当の豊かさについて」こたえるという形で会話が交わされ、女の子に笑顔が戻って弟たちを呼びに行くところで、マルセロ・ペーニャのチョケーラ2重奏が夜明けの情景を静かに描き出す……。

こうして幕を開けた物語は静かに、時にシーケンサーで描かれた不可思議な情景をはさみながら(M-5 YATIRIはフォルクローレでタンジェリン・ドリームを表現したみたいな凄いサウンドになってしまっている。 M-3 AKAPANAに至っては、ほとんどタンジェリン・ドリームの名盤「Rubicon」イントロ!)、最後にはBICHITO DEL FLORで村の情景へと戻っていく。
終曲では「コンドルマリュクよ もう500年にもなる……」と歌いながらも、自らの手でもう一度栄光(パチャクティ)を築いていこう……と静かな決意を歌い上げるのだ。

A面ではイタラケの祭りを描きながらも全体的に短調を中心に構成されており、不安な感じが醸し出されるのに対し、B面では解放され、安心した気持ちになるような長調を中心に構成されいる。特に9曲目BICHITO DEL FLOR では美しい情景が目に浮かび、日本人の私が「郷愁」さえ感じてしまうほどだ※4

ボリビアの名だたる豪華ゲストを迎えて録音された、ルス・デル・アンデ絶頂期のメンバーによる永久不滅の名作※5
あのボリビア音楽界の偉大な巨人、故ホセ“ハッチャ”フローレスがレコーディングに参加しており(どこらへんに参加しているかはお楽しみに)、このアルバムが完成したときには涙を流して喜んだそうだ。
ボリビアで木下尊惇がリスペクトされているのには、このあまりに見事なアルバムの存在が大きいことはいうまでもないだろう。


【注】
※1 ハリウッドなんか2本のコロンブスものの企画が衝突し、お互いどちらも譲らずに両方公開されたぐらいだ。
※2 「コロンブス時代の音楽」ってそれはコロンブスと関係ないだろ!
※3 というかボリビア音楽なんか、カルカスのランバダ問題以外全く話題にもならなかった。
※4 なぜか私は、日本昔話にでてくるような山寺を思い浮かべてしまう…。
※5 当時、木下尊惇の義兄にあたる福岡稔氏から「ティワナク文明が徐々に浮かび上がり、また消えていく」といった構想の下にアルバムコンセプトが決定されたと伺った。エピックから翻訳出版されているアントニオ・パレーデス・カンディア『ボリビアの伝説』(1994)には、細い三日月の夜だけ古の都市が、多くの住人を住まわせたまま「黄金の湖」から浮かび上がり、そして消えていく、といったコロコロの伝説が採集されている。もしかするとボリビアのそういった伝承から想を得た構成なのかもしれない。



"MAKUTIMPI"


【アルバム・データ】
<LP>
LUZ DEL ANDE / "Peskha patac mara …"
SLPL-13725 ( 1992 )
LYRA (BOLIVIA)

1 NAVIDAD EN EL CAMPO (charla)~ ALWA (chokhela)
2 MARCHA DE ITALAQUE (marcha)
3 AKAPANA (ambiental)
4 JALLALLA TIHUANACU (motivo)
5 YATIRI (paso)
6 MAKUTIMPI (trote)
7 TESTIGOS MUDOS DEL TIEMPO (pasacalle)
8 RECUERDO DE CHARAZANI (kantu)
9 BICHITO DEL FROL (ayarachi)
10 PACHACUTI (plegaria)

<CD>
LUZ DEL ANDE / "Peskha patac mara"
CD-13973 ( 2007 )
DISCO LANDIA (BOLIVIA)

1 NAVIDAD EN EL CAMPO (charla)
2 ALWA (chokhela)
3 MARCHA DE ITALAQUE (marcha)
4 AKAPANA (ambiental)
5 JALLALLA TIHUANACU (motivo)
6 YATIRI (paso)
7 MAKUTIMPI (trote)
8 TESTIGOS MUDOS DEL TIEMPO (pasacalle)
9 RECUERDO DE CHARAZANI (kantu)
10 BICHITO DEL FROL (ayarachi)
11 PACHACUTI (plegaria)
12 ALWA (chokhela)

現在CDは発売されていない。早急に発売されることを望むばかりだ
●ボリビアではすでにLPの生産は行っていないため、廃盤になっている。LPを入手できる機会があれば、絶対にチャンスを逃すことのないようにしたい。

■追記■
ゆなさんのご紹介(下記コメントを参照)にあったように、2007年、ついに不朽の名作がリイシューされたぞ!このアルバムをお持ちでなかった方はもちろん、持っていた方もこのCDはマストアイテム!

変更点は以下。
(1)アルバムタイトル末尾の「・・・」が消滅。
(2)LPで1トラックだった"NAVIDAD EN EL CAMPO ~ ALWA"は、2トラックに。
(3)マルセロ・ペーニャのソロアルバムから"ALWA"がボーナストラックに。


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