新しい伝承者…インティ・ボリビア
2006-05-14 Sun 15:19


【INTI BOLIVIA / "HEREDEROS…" 】(1992)


「え~フシオン?キレイなだけじゃん?」
90年代前後からボリビアフォルクローレに新興してきたフシオンというジャンル。最近、非常にこの手のこじゃれたサウンドが増えている。少々食傷気味な人もいるかも知れない。
しかし、「フシオン」の金字塔として登場したこのLPを初めて耳にしたリスナーの興奮をご存じか。
今、みなさんがお聴きになってうんざりのフシオンがあるとしたら、それはその程度の出来なのである。

かつてLPレコードを聴くということは、それなりの儀式であった。ジャケットを開き、中から袋に入ったLPを取り出す。ずっしりと重いLPをプレーヤーの上に載せ、慎重に針を落とす。こうした一連の作業の後に改めてジャケットを見る。A面が終了したら裏返さなくてはならない。リスナー側のこうした作業に見合うだけのアルバムづくりが行われていた。

はたして昨今制作された主なボリビアのCDにはそうしたアルバムづくりを意識しているものがどれくらいあるのか。ただ曲数が集まったから、寄せ集めて録音しているだけじゃないのか(いや、ボリビアに限らず世界中そうなんだけどね)。
INTI BOLIVIAの唯一のアルバム"HEREDEROS …" は、「自分たちのサウンドを万全なカタチで聴かせよう」という意図の下でアルバムづくりが行われた、まさにLP時代最後の花火なのだ。

1曲目から衝撃だった。
「このコンフントは
こういう音を出しますよ」という宣言がされていた。
当時、コンフント物のヴォーカルの歌い方は大体のところ決まっていた。カルカスに代表されるような朗々と歌い上げるカタチが基本だ。状況によってコーラスが入る。フォルクローレになじみのない人に聴かせれば、ヴォーカルもサウンドもみな同じに聞こえるらしい。違いが分からない、という人の声を何度か聴いたことがある。
しかし、この曲。
サウル・カジェーハスのチャランゴとヴォーカルが、ささやくようにうたい、そしてブルージーに揺らぐ。形式はpolcaとなっているが、最小限の音でサウルのサウンドをゆったりと聴かせ、このアルバムが今までのアルバムと違うことを知らしめたのだ。
2曲目、彼らのグループ名を冠したナンバーでは、カルナバルのリズムの中を
エディ・リマの力強いケーナが疾走する。そのドライブ感たるやまさに脳内麻薬ドバーッだ。
極め付きはビエントスの間奏として演奏される
チャランゴのインプロヴィゼーションか。
A面の最終曲では、フォルクローレにフュージョンを取り入れるのではなく、
逆にフュージョンの上にフォルクローレの楽器であるチャランゴをフューチャー

B面最終曲で今までのサウンドの流れが一転。土臭いカントゥのインストゥルメンタルで村の朝の情景を描き出す。
アンデスの農村風景を描く土のようなサンポーニャに、繊細なサウルのチャランゴを重ねることによって、根っこの上の新たな芽吹きを表現しているようにも感じられる。

●土臭いカントゥ・土のようなサンポーニャ…根っこ(伝統)
●繊細なサウルのチャランゴ      ……新たな芽吹き(新感覚)

新しい時代への意気込み、宣言をあえてラストに持ってきたのではないか
「SIEMBRA(種蒔き)」というタイトルが象徴的ではないか。

ここまで聴けば、もう、単にコジャレたサウンドを聴かせようという凡百のフシオングループとは違うことがはっきりする。
タイトル「HEREDEROS …」は「伝承者」という意味。
その名の示すとおり、彼らはカルーヨ、シクーリ、タキラリ、カントゥ…とオシャレとは縁遠い土臭い題材をも取り上げ、現代の都市生活を送る彼ら自身の血肉の通った音楽としている。
まさに伝統の上に立った新しい音楽
同じフシオンとはいっても、フォルクとして演奏する必要性の感じられない昨今の「フシオン」とは根本的に違い、「フォルクローレ(伝承音楽)」以外の何ものでもなかったのだ。

1曲1曲のつながり方が秀逸で、捨て曲が全く存在しない完璧な全9曲
そして今までのサウンドとは違うことをアピールしたジャケット
裏はあえて、手書きのほれぼれするようなデザイン。
盤はピクチャーレーベル

CDとLPの端境期に1枚のみを残して消えた幻のコンフント
幻の名盤である。


"Inti Bolivia"

【アルバム・データ】
<LP>
INTI BOLIVIA "HEREDEROS…" (1992)
mcb CL - 35 (BOLIVIA)

01. MIS ANSIAS (polca)
02. INTI BOLIVIA (carnaval)
03. RECUERDOS (kaluyo)
04. LEJOS DE LA PAZ (sicuri)
05. STRESS DE VERANO (cancion)
06. SIN TI (taquirari)
07. EN OTON~O (cancion polca)
08. INDOAMERICA (cancion)
09. SIEMBRA (kantu)

●LP盤は入手不可。mcbはカルカスなども出しているDISCO LANDIAのメジャーレーベル。しかし、このアルバムに関して、ボリビアで売り上げがあったとか話題になったとか、そういう話を聞いたことがない。そうした評判をご存じの方、ご一報下さい。
●当然、ボリビアのメジャーがCD化を考えている様子はないようである。




■追記■
ネットショップのDISCO ANDINOさんから、ついについに幻のアルバムが発売になりました!驚くべき事に、このCD、ボリビアに頼っていては永久に幻のアルバムになってしまうことを憂いたDISCO ANDINOの西田さんが、サウル・カジェーハスと共同でCD化を行ったのだとか。しかも未発表テイクを追加収録!
今までこのアルバムを未聴だった方だけでなく、すでにLPを持っている方も含め、全フォルクローレファン待望のCDであること間違いなし。
試聴ファイルもサイト上にありますので、すぐにチェケラ!(06年5月14日追記)
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