抽象的音楽に抽象的なレビュー…フロレンシア・ルイス
2008-03-02 Sun 22:34

【 florencia ruiz / centro 】(2000)
【 florencia ruiz / cuerpo 】(2003)
【 florencia ruiz / correr 】(2005)

今回は一気に3部作同時紹介である。
ボリビアチックなフォルクローレを愛好している方々にとっては
「はあ?今回はパスするか」な音源かも知れない。
え? ああっ、帰らないで。

確かにmixiでも40数名しかコミュがのびていない。
だからこそ、こんな傑作もあるのだということをお知らせしておきたいのだ。
アルゼンチンのフロレンシア・ルイス
アンジェラ・アキみたいなピアノ弾き語り、さだまさしみたいなギター弾き語りスタイルだと言ってしまえば、至極一般的なスタイルのようにみえる。
あえて分類して一言で説明しなければならないとすれば、だ。
でもね。

●音やジャケットに込められた小さな宇宙

5・6年前、初めて聴いて驚いたのはその音。

1stアルバム『Centro』は友人に借りたPCを使って1週間で録音されたCD-R作品。※1
ギターのアルペジオ、もしくはピアノをメインに、サンプリングなどをのせるシンプルな音。
その上に最小限の言葉が重ねられる。
言葉は固い固いぞうきんのようにぎりぎりまで絞りきって
これ以上はないというところまで削ぎ落とした表現。

内省的というか、内向的というか。
自分の中に生まれた気持ちを歌っているはずが、まるで小宇宙そのものの表現になってしまうのが凄い。

そう、彼女は自分の心の内を歌っているつもりでも、我々にとってはそれは1つの「世界」であり「宇宙」なのだ。なんというか、ウパニシャッド哲学って高校で習ったが、あれだ。自己の中の小宇宙(アートマン)と我々の外に展開する大宇宙(ブラフマン)の合一。あのくたらさんみゃくさんぼだい。いや、そんな大層なもんじゃないかもしれないけれど、小さな世界が見えてきてしまうのは事実なのだ。

2ndアルバム『Cuerpo』のアルゼンチン盤ジャケットはそうした音楽性を良く表しているように思う。
桜餅カラーの組み合わせで構成された写真とフォント。
愛猫とフロレンシアの2ショットや、セルフポートレート。
長めの露光で手ぶれを起こした写真。
すべて自室内で撮られたショットでありながら、ちょっとした世界を作り出しているように感じるのは気のせいか。

●三部作で完成された宇宙

2005年。
3rd『Correr』が発売され、待ち続けた彼女の3枚目のアルバムが届いた。
ヘッドフォンから聞こえてきたその音の変化に一瞬たじろぐ。
今までと違う。
ドラムス、ベース、キーボード、ギター。
えらくポップなバンドサウンドからスタートするのだ。

しかし、始まってすぐに納得。
バンドサウンドも選択域に入れたことにより表現の幅が広がり、さらに具体的な世界を描いていくことが可能になる。
相変わらず世界観は内なる自分。でもまぎれのない1つの宇宙。
世界を表現するのに、形式にこだわることはない。あらゆる手段を使って宇宙を縒り上げていく。
室内楽、ポップ、プログレ、音響、フォーク、エレクトロのいずれの片鱗もありながら、いずれでもない。というか、これほどジャンル無用の音楽はない。そこはフロレンシアの世界そのもの。

1st「Centro」の最終曲「Aero(空気)」で「空気/自己分解/私は自分自身を見つけたい」と歌った彼女。3部作最後の「Correr」中、クライマックスを飾る「Vivire」で

空気というものは/人間にとって絶対になくてはならないもので/どんな人でも必ず(呼吸)していて/……それは金持ちの人でも貧しい人でもみんなが絶対しているもので/……植物も動物もみんな生きていくために(必要と)していくものです」

と、1stに対する解答を曲中にフィーチャー。5年間にわたる3部作の輪を閉じた。※2



"Vivire"

わずか15~30ほどの単語。
3行から10行にも満たない言葉。
たったそれだけで1曲が構成される独自世界。
3部作は、時に息苦しく重い世界をも描きながら、ありのままに生きる清々しさを感じさせながら幕を閉じた。※3

たしかにこれが彼女そのものなのだろう。

【注】
※1 
幼稚園の先生をしていた彼女。シャイな性格だとかで、作曲をしていることさえ誰にもいえなかったとか。第二のフアナ・モリーナだとか、アルゼンチンのビョークだとかアルゼンチン音響派のカテゴライズで語られることが多いが、とりあえず、フロレンシアはフロレンシアである。

※2
この台詞、なぜかフロレンシアの日本人のお友達が日本語で語っている。

※3
ここまで書いて、フロレンシアがロシア文学の影響を受けているという話を思い出した。そういえば、ロシア文学も息苦しく重い世界だが、最後は清々しい解脱感を持って終わる話が多いような…。


【アルバム・データ】
<CD>
"florencia ruiz / centro " (2000)
型番なし(ARGENTINA)
1. Centro 
2. Revolver
3. Domino
4. Patos
5. Pases
6. Aero

"florencia ruiz / cuerpo "(2003)
型番なし(ARGENTINA)
1. Nin~o 0 
2. Siberia
3. Del cuerpo
4. Man~ana
5. Alcanzar
6. Sin imagen
7. Parte
8. Ahogarme en mi
9. Despierto

"florencia ruiz / correr "(2005)
型番なし(ARGENTINA)
1. Correr 
2. Hasta la Primavera
3. Majandote
4. Mundo
5. Nube
6. Migajas
7. Intemperie
8. Lugar
9. Desato
10. Vivire
11. Nijni

●アルゼンチン盤はすべて自主制作盤。1stに至ってはCD-Rである。
しかし、USAやチリ、メキシコなど海外でも彼女のサウンドは注目され、リリースされているようだ。日本でも1stと2ndの2枚組が正式にリリースされている。

<CD国内盤>
"フロレンシア・ルイス/クエルポ+セントロ" (2005)
PCD-25024/5 P-VINE RECORDS(国内盤)


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