それはハイラス以上にハイラス!……ロス・カンカス
2012-02-01 Wed 21:58

【LOS KHANKAS / bandoleros 】(1977)


ボリビアのバンドには頻繁なメンバーチェンジはつきものなのである。

え、そんなのいずこも同じだって?

いやいや、単に「メンバーが入れ替わる」では済まないケースがあるのだ。
なんと、元のメンバーが全員いなくなってしまう(!)ということも珍しくない。
気付いたら全く別のバンドに入れ替わっていたという70年代海外SFみたいな例が普通に見られるのである。

ヌエバス・ライセス、ハッチャ・マリュク、ルス・デル・アンデ、ティンクイ……。※1

第一、ボリビア・ネオフォルクローレの基礎を築き上げ、革新を起こした伝説のロス・ハイラスからして、事実上の総入れ替え状態。
そんなことでよいのか、ロス・ハイラス……。

そもそもロス・ハイラスが絶賛された最大の要因は、ヒルベルト・ファブレの緊張感みなぎる力強いケーナ、エルネスト・カブールの超絶自在なチャランゴといったポスト・ロックな革新性にあるといってよいだろう。鄙びた音楽に過ぎなかったフォルクローレのイメージを完全に覆す表現・奏法を彼らが編み出し、新たな音楽を作った開拓者としてリスペクトされていたわけだ。しかし、70年代に突入するや、カブールの脱退を機にハイラスはバラバラに。その後、ボーカルのヤヨ・ホフレが「ヤヨ・ホフレ・イ・ロス・ハイラス」としてハイラスの名前を引き継いでいる。

だが、その後リリースされたアルバムを聴いてもカブール、ファブレのいないハイラスはどちらかというと、単にヤヨ・ホフレのバックバンドといった風情である。

しかし、諸君、がっかりするなかれ。
ハイラス以上にハイラスであり、なおかつハイラスをより過激にしたグループが突如現れる。

そう、ファブレとジャン・ビダラックが74年に結成した「ロス・カンカス(当初は「ロス・グリンゴス」)」だ。

このバンド、77年にアルバム「Bandoleros」をリリースしている。このアルバムを聴くとファブレが、かなりの意気込みで「俺たちこそハイラスである」と主張しているように思われるのだ。まずジャケットからしてハイラスの名盤「Bolivia con Los Jairas」そっくり。また、アルバムタイトル『バンドレーロス』は、「演奏者」と「怠け者」のダブルミーニングになっており、こんなところにも「俺たちこそハイラス(「怠け者」)だ!」てな主張がびしばし伝わってくるのである。


●LOS JAIRAS "Bolivia con Los Jairas"(1966)

もちろん、ただ単に「ハイラス時代の音を再現しています」ってなバンドなら、それは精巧なコピーバンドに過ぎず、こんなところでご紹介したりはしない。ハイラスの正統を主張しながらも、時代の要請に合わせにサウンドに変化を加えているところがスゴいのだ。
このアルバムがリリースされた77年頃といえば、ハイラスが作った「ボリビア音楽」がさらに次のステップへ移行しようとしている時期である。

例えば、ルーパイがフランスにおいてサンポーニャをメインにしたアウトクトナ・ナンバー「ハッチャ・ウル」で成功を収めたのが76年。そのボリビア盤が凱旋リリースされたのが77年。アウトクトナにナレーションを組み合わせ、コンセプチュアルに作られたカナタの名盤「KANATA」)がリリースされたのも77年なのだ。※2

こうしたアウトクトナのアルバムが次から次へとリリースされるようになり、野趣に溢れたサンポーニャのサウンドが認知されるようになると、純然たるアウトクトナ以外の音楽にもその激しいサウンドを取り込もうという動きがさらに活発化する。すでに
ワラは76年までに「HICHANIGUA HICATATA」シリーズの「MAYA」と「PAYA」を発表してアウトクトナとクリオージョの融合を図っている。また、76年にリリースされたカルカスのデビューアルバムや77年にリリースされているサビア・アンディーナの3枚目のアルバムを聴いても、「フォルクローレと言えばケーナ」という時代は終わり、サンポーニャが強い印象を残しているのである。

もし、ファブレやカブールが脱退せずに、そのままハイラスが時代に合わせた進化をしていたらどうなるか。
そのシミュレーションのような感覚がカンカスのサウンドにはある。

ファブレがいくら伝説のケニスタであったとしても、主メロをケーナばかりで構成するようなアルバムではない。サンポーニャの激しいアタック音でアルバムに彩りを増やしているのだ。もちろん主役はビエントスだけではない。アルバムにジックリと耳を傾けると、ほとんどカブールそっくりなチャランゴまで暴走気味に再現。その疾走感は特筆もの。また、ギターが80年代のポップ路線のようにバックに回ることなく、痺れそうなソロをとって前面に出てくるところなんざカッコよすぎ。

メンバーを知りたいところだが、残念ながらジャケットにクレジットがないのでわからない。だが、写真を見る限りハイラス出身メンバーはファブレのみのようだ。なのにもかかわらず、そのサウンドは極めてハイラスっぽい。いや、語弊があるかもしれないが、ハイラス以上にハイラスっぽいのである。

メンバーがそろっているわけでもないのにハイラスの正統進化が聴ける喜び。
なんたる感動。

【注】
※1 
有名どころばかりで意外に思われるかもしれないが、まあ、有名どころだからこそ、オトナの事情で存続させるともいえる。ルス・デル・アンデのように、すでに休眠状態だったバンドの名称を若手に譲った、というケースもあるので一概には言えないが。

※2 
ムシカ・アウトクトナとは、先住民族の農村土着の生活の中で生まれた音楽を指す。都市でつくられたムシカ・クリオージャに対する語として使われる。いまさら、の感もあるが念のため。


【アルバム・データ】
<LP>
"LOS KHANKAS / Bandoleros" (1977)
LPS 019 Campo(Bolivia)
01. PRESENTACION
02. CALNAVAL TUPICEN~O
03. INTI HUAYNA
04. LLANTO DEL OLVIDO
05. CANTO DEL MAR
06. MORENADA DEL KHANKA
07. KALLAWAYA
08. GRACIAS A LA VIDA
09. LA ENCANTABLE
10. MORENADITA
11. PEQUEN~O MANUEL
12. GRITO AYMARA
13.DESPEDITA
●このアルバム、LP盤面のレーベルには「LOS GRINGOS…BANDOLEROS」とある。実はジャケットにも「Los Gringos」と印刷されているのだが、その上から「LOS KHANKAS」というシールでグリンゴスという名前を隠しているのである。メンバー数人が外国人であること、ファブレの愛称が「グリンゴ」であったこともあってついたグループ名だったのだろうが、シールを貼るという緊急支出をしてまで名称を変更した理由はなんだったのだろうか、気になる……。実際には「グリンゴ」という言葉は、「よそ者」というニュアンスで外国人全般にも使用される言葉である。ファブレの愛称が「グリンゴ」だったのもそのためだが、辞典的な解釈で言えば、「グリンゴ」とはアメリカ(合衆国)人の蔑称として使用されるケースの方がメジャーだから……?

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