アンデスの太陽……カルカス
2006-10-09 Mon 19:14

【KJARKAS / Sol de los Andes】(1983)

とりあえず、またもや代車だ。
またもやオーディオはカセットだ。
70年代から90年代末頃のものに至るまで、様々なカセットを引っ張りだして通勤中に聴いてみた。
しかし、今回最も驚きに満ちて新しかったものは、意外にも学生時代に飽きるほど聴き込んだはずだったカルカスの『SOL DE LOS ANDES』だったのだ。
感動的だった、といってよい。
それから1ヶ月間、行きも帰りも寝る前にも、毎日どっぷり『SOL DE LOS ANDES』漬けだった。

「またカルカス?お前はそれしかないんか」
「70年代の名アーティストのアルバムはどうした」
うぐぐ。そういわずにまあ聴いていただきたい。

それまでのカルカスはいかに「ネオフォルクローレの旗手」とよばれようが、クエカはいかにもクエカらしく、ウァイニョはいかにもウァイニョだった。※1
いや、いかにもフォルクローレらしいのは絶対的な美点であり、それは最強の武器だよ。もちろん。
ただ別ジャンルの視点から見ると、ちょっと単純・単調な点があるのも否めない。
こうした形式に縛られたままでは、なかなか自分の内面を完全に表現するのは厳しいだろう。
例えば、我々日本人が音楽で「何か」を表現したいと考えたとしよう。
何でもいいよ。
そばにいてくれる彼女への感謝の気持ちでもいいし、失恋の痛みでもいいし、神への祈りでもいい。冷蔵庫のプリンを食べられた絶望、お前の母ちゃんデベソでもいい。
そうした気持ちを「音頭」とか「佐渡おけさ」の伝統的なリズムと形式にのせて歌ったところで、きわめて表現しにくいであろうことは想像に難くない。

そこでこのアルバムが生まれた。
さらなる表現の可能性を求めて全編「新しいフォルクローレ」を目指した、まさに中期カルカス確立を象徴する傑作・名作なのだ。
ウリセスの作曲センスとアレンジがさえるのなんのって。※2

●M - 1「LA VENTANA」はイントロだけでなんと1分15秒はある。
1曲の長さがほとんど3分~4分で終わることの多い当時のLP用フォルクローレの中では異様な長さだ。 ※3
もう、これだけで何か今までとは違うサウンドが期待される。
そこから始まる囁くようなヴォーカルのバックは、チャランゴとギターのアルペジオのみ。
サビの部分はラスゲアードにもなるが、これも抑えに抑える。
リリシズムたっぷりだ。
今までの朗々と歌い上げるスタイルを脱しきった、新しさを予感させるオープニング。

●ことにM - 3「NIN~A MIA」は、カルカスがバラードでよく歌う形式チュントゥンキで書かれた傑作だ。※4
しかしこの曲に限ってはお決まりのチュントゥンキの展開を期待すると幻惑される。

【構  成】   前奏---ヴォーカル---間奏---ヴォーカル---間奏---ヴォーカル---後奏~朗読
【メロディ】    A-----------B----------C---------B----------C-----------A----------A------A
【強  弱】    弱----やや弱~強-----強----やや弱~強-----強----------弱----------弱----- 弱

いままでの(いや、現在も)フォルクローレでは、
前奏はヴォーカルの前座をしているだけ。
間奏はヴォーカルの1番と2番をつなぐだけ。
後奏は終わらせるだけ。
しかしこの曲では、
前奏や間奏、後奏大きな意味を持って曲の中で自己主張をしている。
曲全体はチュントゥンキのリズムで統一されているのに、月や虫の音のような静寂、それに間奏のサンポーニャの激情の狭間で大きく揺れ動いている。
LOS JAIVASやWARAのようなプログレ出身の異端児ならともかく、ヒットチャート街道を突進中の商業ベースフォルクローレがこのようなサウンドを模索すること自体が驚きだ。

●続くM - 4「TORMENTO」はゴンサロらしくいかにも「
どクエッカ」なのだが、ある意味このアルバムを象徴する1曲かもしれない。
7割を占めるウリセスの曲が革新的でリリシズムに満ちあふれた新しいサウンドなのは当然としても、
頑固なゴンサロの曲が新たなリリシズムをもって演奏されてしまう点にある種の感慨を持たざるを得ない。
まるでブラジルのジョアン・ジルベルトが、サンバをある種のけだるさとリリシズムたっぷりに演奏してボサノバというジャンルが誕生したように。
ボリビアのカルカスは、クエカをある種のけだるさとリリシズムたっぷりに演奏してネオ・クエカとでもいうべきジャンルを生み出そうとしていたのでは?とさえ邪推してしまう。


この他、全10曲すべてが新しい表現を得て、繊細に演奏される。
さんざんっぱら、現代に生きる自分たちの心情を表現しようとしてできたアルバム。

でも、新しければいいってか?
新しいことすればえらいのか?

ちがうちがう。そんなこと言いたいんじゃないんだ。
僕たちが新しいことをするのはこういうことなんだよ。

そう言いたげにエンディングに配された曲が「CHAPARA」だ。
このアルバムをお持ちの方は多いと思うが「そんな曲あったっけ」「どんな曲だっけ」などとこの曲を軽んじてはいけない。
このアルバムの鍵を握るもっとも重要な曲である。※5

冒頭、ギターのベース音で始まるなんてところはロックやジャズを思わせる。
ギター → チャランゴ → サンポーニャとつづくカッコいい展開は、ネオフォルクの面目躍如だ。
しかし今までのアルバム同様に「カッコいいメロディが2~3回転して盛り上がって終了」というようなパターンにはならず、あっという間に終わってしまう。
代わりにいきなりアウトクトナが始まるのだ。
チョケーラに続いて最後にキタスによるシクリアーダがはいって終わる訳だが、
「カルカスにアウトクトナもどきやってもらってもしょうがねえよなあ」と不満なかたもいらっしゃったことであろう。

しかしこの曲、最初のネオフォルクのモティーフとその後展開されるアウトクトナのモティーフが同様のものなのだ。
最後のキタスにいたっては全く同じメロディだ。
つまり彼らが言いたいのは、今まで展開してきた自分たちの音楽がいかに新しい表現になろうと、根っこでは自分たちがボリビア人であることに変わりはない、ということなのだ。
あくまでボリビア人としての根っこをふまえた上で、現代の自分たちの持つ心情や感覚を表現するための手段として表現を変えてゆく

それこそが自分たちボリビア人の音楽なのだという宣言なのである。
表面上は変わったように見えても、永遠に根っこは変わることはない。

タイトル曲「SOL DE LOS ANDES」はこう歌うのだ。

   道の埃の中を探しまわったけれど
   僕の根は故郷に捨ててきてしまった

   アンデスの太陽よ
   僕はわが故郷に戻り 黒い大地を耕そう
   故郷の夢と明日とともに


音楽とは社会情勢や文化と乖離して存在しているものではない。
決して「音楽に国境はない」などという能天気なものでもない。
このアルバムとて、単に「ポップス化したね」というような単純なモノではないのである。

【注】
※1 
このアルバムの特異さは、翌年ボリビアで録音され発売された「PUEBROS PERDIDOS」のクエカと「SOL DE LOS ANDES」所収のクエカを聴き比べてみれば一目瞭然。

※2 
録音はアルゼンチン。現在に至るまでこれほど音質のまろやかな録音はないと言ってよい。演奏の点でもその後も見られぬほど、非常に細かなところまで気を配っており、ある意味現在のアルゼンチン音響派に底通するような独特の繊細な感覚が見受けられる。アルゼンチン人のプロデューサーでもついていたのだろうか?

※3 
逆に共同体で演奏される本物のアウトクトナは永遠に<繰り返し>。適当なところで終わらせないと死ぬまで終わらない。

※4
チュントゥンキはハチロク系の要素が混じり、幾分つんのめるようなリズムが特徴。
本来クリスマスソングとしての形式であることもあり、カルカスのアルバムではバラードで大活躍していたリズム。 

※5
日本盤は、タイトル曲をA - 1に持ってきたいがためにA面とB面をひっくり返して発売された。そのため、この曲をアルバム全体の総まとめの位置に持ってくることができず、アルバムとしての意味合いが非常に薄まってしまっている。



●"NIN~A MIA"

【アルバム・データ】
<LP>
"KJARKAS / Sol de los Andes" (1983)
BO/LRL-1456 Lauro Records (Bolivia)
01. LA VENTANA (Chuntunqui)
02. ORURO (Morenada)
03. NIN~A MIA (Chuntunqui)
04. TORMENTO (Cueca)
05. VIRU VIRU (Carnavalito)
06. SOL DE LOS ANDES (Huayn~o)
07. EN LA SOLEDAD (Chuntunqui)
08. CHHULLA (Saya)
09. MUCHACHA DE ALAS BLANCAS (Chuntunqui)
10. CHAPARA (Huayn~o)

● LPはもちろん廃盤。ただし日本盤がポリドールから出ていたため(25MM 0428)、中古盤が入手できる可能性はある。ただし、注5を参照。

● CDはボリビアからは今のところリリースされていないが、これだけの名盤である。いずれチャンスはあるだろう。
 現在はペルーのIEMPSA盤(C.D.91150157)を入手できる。



【追記】
DISCO ANDINOさんのサイトを見ていたら、既にボリビアでも復刻していた。
しかも2000年。う~ん、面目ない(LCD 0318)。(06/12/16追記)
別窓 | KJARKAS | コメント:33 | トラックバック:0 |
| これを聴け! |