だからあなたはあなたの音を…ウァユカルティア
2007-01-21 Sun 03:32


【HUAYUCALTIA / "AMAZONAS"】(1992)


君が出向を命じられた会社は、社長以下56名の社員が全て8本足のタコである。

3本の足で別々の電話を受けながら、4本目の足で伝票を作成。
5本目の足で出張報告書を作成し、6本目の足で物品購入依頼書を書きながらも、7本目の足で稟議書に押印し、8本目の足で鼻くそほじっている。
みんな仕事が速いこと速いこと。

仕事は素早く出来あがるわ、インクがなくなりゃ体内から墨出すわ、都合が悪くなりゃ煙幕張って逃げるわ、残業の夜食は自分の足食っちゃうわ、ゆでれば真っ赤になるわ。
優秀なタコばかりだ。

君はタコ上司に叱られるだろう。
「だから吸盤のないヤツはダメなんだ!!」

さて君ならどうする?
 ア)タコになる努力をする。
 イ)ヒトとしての特徴を生かした仕事をする。

君はどっち。
そう。
押しつける気はないけど、私なら、イ)だな。
十指を有効に使ってコンピュータを導入したり。
2本の腕と2本の足を生かしてコブラツイストかましたり(←?)。
発声器官の発達した口を利用して、営業トーク。
朝礼だって大活躍。
接待のカラオケもまかせとけ!
しょせんタコにはなれないのだよ。
いくらマネしても。

タコ社会のルールはあるだろう。
しかし、その範囲内でヒトとしての特性を磨き、タコには出来ない仕事をしないと。

「君がいないとわが社はダメだ」「さすがヒトはヒトアジ違うなあ」
それが存在価値、というモノでしょ。
そんな自分だけの「存在価値」に関するお話し。

フォルクローレは、現地以外でも欧米やニッポンなど様々な国や地域の人々によっても演奏されてきた。今回ご紹介するのはそんなアメリカ合衆国のバンド、ウァユカルティアだ。
しかし、このバンド、フォルクローレファンの評価は不当に低い。
最低と言っていい。
耳障りのいいニューエイジ・ミュージック程度に勘違いされている。

しかし彼らは「本物のタコ」、いや「本物の音のモノマネ」に走るなどという愚を犯さない。自分たちにしか表現できない独特のサウンドを作ろうとし、唯一無二のサウンドを生み出しているのだ。

ジャズやフュージョンの感覚に似ている。

いや勘違いしないで。
第一、フリージャズの要素は皆無だし。
第一、スウィングするわけじゃないし。
第一、ケーナやチャランゴ、ボンボといったフォルクローレの楽器編成を使って、カルナバルやサヤといった南米由来のリズムを演奏するのみだし。

だから、どう聴いても彼らのサウンドはジャズそのものには全く聴こえない。
しかし、ボリビアン・ジャズやカルロス・ポンセよりも、むしろ彼らの方が本質的にはジャズのノリその楽しさをず~っと理解している。

リズムはウァイニョやカルナバルなどの定番形式。
しかし、どの曲もメロディを聴かせるだけでなくリズムが強調され、ゆったりと少しずつ盛り上がっていく。
シロ・ウルタドによるフラメンコギターのインプロヴィゼーションがゆったりとしたリズムの中を駆け抜け、ますますノリを強調。
一定の間隔で打ち続けられる鼓動が体の中に徐々に積み重なり、盛り上がっていく様をリスナーは感じるはずだ。こうなってはもう気持ちのいいタテノリのウェーブに身をゆだねるしかない。


そう、それがまさに「グルーヴ感」。

聴き方を間違えれば、単に耳障りのよいニューエイジ・ミュージックと勘違いしてしまいそうになるサウンドだ。しかし、繰り返すがウァユカルティアは南米のリズムを生かしたグルーヴ感を楽しむべきバンドなのだ。

かつて、アメリカ大陸に連れてこられた黒人達。
アメリカのマーチングバンドやダンスミュージックの表現方法を借りながらも、アフリカ伝来のリズム・ノリをプレイすることで独特のグルーヴ感を持ったジャズを生み出したように。

かつて、アメリカ合衆国に移民してきたラテンアメリカ生まれのメンバー達も。
アメリカに暮らす自分たちの感覚でアンデス伝来のリズム・ノリをプレイすることで独特のグルーヴ感を生み出すことに成功したのである。

確かに、こんな音楽は、ボリビアやペルーでは生まれない※1

なまじっかフランスなんかによくいる半端なモノマネ連中より、図抜けた存在だと言ってよいだろう。

メキシコ、ペルー、コロンビア、アルゼンチン、アメリカとメンバー5人(『CAMINOS』までは6人)の出身はバラバラ。
国籍混成コンフントというスタイルは、どこかの国のマネとかコピーに堕してコンセプトが甘くなるケースが少なくない。確かにアイデンティティを大事にするジャンルだからこそ、多くの演奏者が「現地の音」「本場の音」を大切にしなければならない、と考えるのも分かる。
が、しかし「自分の音」を忘れてしまえばアイデンティティの表明ではなく、単なるサルマネに堕してしまうことを、彼ら移民達のサウンドが教えてくれている。きちんと自分自身と向き合えばこんなに優れたオリジナリティが生まれるのだ。

そう。

人生や育った環境から意識せずとも滲み出てくる「自分だけの」音こそ、本当のあなたのアイデンティティではないか。※2


【注】
※1
ボリビアやペルーなどの山岳地方のリズム感覚は、どこか日本人のような「すり足」感覚みたいなものを感じない? 生粋の農耕民族リズムみたいな。いやもちろん、6/8やら3拍子系統も歴史上混じっていて、我々のリズム感覚と大分違うのは分かっちゃいるけど。でもボリビアン・ジャズのように、アフロ系シンコペーションを真似て裏拍でスウィングしてみても、どうしても本質的な「跳ねる」感覚というのかな、そういうのが欠落しているような気がするんだけど。

※2
私はROMレーベル在籍時の3枚のアルバムしか所有していないが、1st「CAMINOS」、2nd「HORIZONTES」、3rd「AMAZONAS」…と重ねるにつれ、確実にこの方向性は完成されている。というわけで92年作「AMAZONAS」をお薦めする。その後の2枚のアルバムは未聴だが、2006年のベスト盤「TIEMPO」の試聴ファイルを聴く限り、かなり音楽性が変化したようにも感じられる。



●"Can~a Blava"  ……1stアルバム『Caminos』から。前半をじいっと聴き続けると、多分5分過ぎあたりにはわくわくし始めるぞ。


【アルバム・データ】
<CD>
HUAYUCALTIA / "AMAZONAS"
26012 (1992)
ROM Records (USA)
1  AMAZONAS
2  MIRANDO AL CIELO
3  CHOLITA
4  LA ZAMBA Y SU FUELLE
5  AMERICA NEGRA
6  UN ESPEJO
7  RUMBITA
8  APURIMAC SIKURI
9  VOLANDO ALTO
10  DESTINO
11  RUMI
●彼らのHPを見ると、前2作は在庫切れだが、コレはまだ売っているらしい。


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