アトムとイヤミとウリセスと…カルカス
2007-07-08 Sun 15:02

【KJARKAS / "Desde alma de mi pueblo"】(1981)

さて質問である。

次の三つの共通点は何か。
(1)『鉄腕アトム』のアトム
(2)『おそ松くん』のイヤミ
(3)『カルカス』のウリセス

●マンガ? 
ブー、不正解。『マンガ・カルカス物語』なんて見たことある?

●パンツが独特な人たち? 
はい、正解。
じゃなかった、あわわわわ。

では正解を。
●「メインが脇にまわり、脇がメインに → 大ブレイク」という人たち。
アトムやイヤミが脇役から主役級に格上げされて活躍したのと同様、ウリセス・エルモサがメインになることで、カルカスのカリスマ的地位は確立されたのである。※1

この場合、「メイン」とは「フロントマン」とか「ヴォーカル」という意味ではない。誰がアルバム制作の中心となるかという話だ。1stアルバムでは、ゴンサロばかりだった作曲クレジット。ところがこの4thでは、10曲中なんと6曲(含共作2曲)がウリセスのオリジナルなのである。

ちなみに、このアルバム『Desde alma de mi pueblo』に対する評価を耳にする機会は、正直あまりない。
しかし、だからといってナメてはいけない。
本当はカルカス史上最高傑作といってもよい作品なのだぞ。

このアルバムが傑作?
1st~3rdと今ひとつ区別がつかないんだけど?なんて人も多いだろう。
まあ、あわてない。あわてない。
今説明するから。

往々にして、カルカスをはじめとしたネオ・フォルクローレのイメージは、以下の通りだったりする。
(1)チャランゴやギターのラスゲアードの上に朗々と歌われるヴォーカル、
(2)前奏・間奏・後奏にサンポーニャやケーナなどのビエントスが入る。

しかし、このアルバムをよく聴いてみよう。
そんな単純な構成を意図的に打破しようとする革新的な曲作りに気付くであろう。

●「Sunch'u T'ikitay」(Ulises Hermoza)
 ・前奏もヴォーカル伴奏中も、ギター、チャランゴともにアルペジオかプンテアード。※2
 ・間奏/後奏だけいきなりラスゲアード。※3
 ・しかも間奏に入ったとたん、ウァイニョ(huayn~o) からサヤ (saya) に
  変拍子かましちゃう強烈なアレンジ。
 ・さらにヴォーカルはこっそりとウイスパーに。

●「Sach'a Mayu」(Ulises Hermoza)
 ・アウトクトナ→ネオフォルクローレ→アウトクトナとつづくメロディはすべて同一メロディ。※4
  新スタイルのフォルクローレであろうと根っこはボリビアであるというアイデンティティの宣言。

●「En un Ablir」(Gonzalo Hermoza)
 ・ネオ・クエカとでもいうべき、けだるく新しい、踊れないクエカ。


ほら、『アンデスの太陽……カルカス (10/09)』をお読みいただいた方は、もうお気付きだろう。第2期カルカスの大傑作『Sol de los Andes』に収録された各ナンバーの原型は、このアルバムのこれらの曲にある。つまり、この作品は初期カルカスの総決算であると同時に、後に世界中のファンから絶賛されることになる第2期カルカスのパイロット版でもあるのだ。もちろん、

●のちのヒット作の数々を思わせる、耳に焼き付いてはなれないウリセス・メロディもの(M-8)
●初期カルカス名物・大迫力サンポーニャぶちかましのスピードナンバー(M-2,7,9)

もあり、過去カルカス未来カルカスの萌芽もすべてのカルカスが存分に楽しめる。

だからもう一度言おう。このアルバムはカルカス35年間の歴史における最高傑作の1枚といってもよい作品なのである。

翌82年のラウロ移籍後にリリースされた『Canto a la mujer de mi pueblo』では、ウリセスの「Wa ya yay」「Llorando se fue」が史上空前の大ヒット。さらには南米や欧州公演にも次々と招かれるなかで発表された83年の『Sol de los Andes』。ほとんどがウリセスの作曲となり、重なるヒットの中でカルカスは完全にフォルクローレ界における不動の地位を獲得した。

このアルバムは、そうしたウリセス・ビッグバンの嚆矢となったアルバムである。

第2期に世界を席巻したあのカリスマぶりは、ウリセスの作曲センスに負うところが大なのは周知の事実。ゴンサロの曲メインで出発したカルカスは、このころからウリセスの曲ばかりがことごとく大ヒット。第2期終盤では、ゴンサロがほとんど隠遁状態にしか見えなかったほどだ。そうした傾向がはっきり見え始めたのがこのアルバムといってよい。

 1)ずっしりとしたゴンサロ。
 2)ハイスピードでカッコいいラミーロ・デ・ラ・セルダ、フリオ・ラバジェン。

……これに加えて、
 3)2ndまでのカルカスに、いやフォルクローレ界になかった「リリシズム」をどう表現するか探り続けたウリセス。

この三者のセンスがいい案配で混じり合った最後のアルバムなのである。※5


【注】
※1 
「おそ松くん」のイヤミはともかく、「え?『鉄腕アトム』の主人公はアトムじゃないの?」と驚く方もいらっしゃるだろう。昭和26年に連載が開始された『アトム大使』は、故郷を失った宇宙人と地球人との対立を第三者のロボットに仲介させることで文明同士の和解を図ろうとする作品である。ここで主人公的人格を与えられているのはケン一、タマオといったキャラクターであり、アトムは中盤を過ぎるまで(連載開始後4ヶ月!!)登場しない上、感情を感じさせない機械でしかない。人気のあがらなかった『アトム大使(全12回)』終了後、光文社『少年』の編集長が、アトムに感情を与えて、これを主人公にすることを提案。こうして描かれた作品が『鉄腕アトム』である。

※2 
アルペジオはつま弾きでコードの構成音を音階順に弾く奏法。
プンテアードは音を一つずつ爪弾く奏法。ぽろんぽろん。

※3 
ラスゲアードはジャンジャカジャカ。爪が減る。 

※4 
アウトクトナとは、各地方で伝統的に演奏されている音楽のこと。山岳地方の共同体(アイニ)で共同作業を行うときの音楽や、儀式や祭りの際に演奏される音楽をいう。地方によって形態が違うため、一概に「こういうスタイル」という説明ができないのがもどかしい(ちなみに「フォルクローレ」と聞いて我々外国人が思いだす、ギター/チャランゴ/ケーナ/サンポーニャ/ボンボといった演奏形態は、1960年代に白人層のクリオージャ音楽とインディオ層の音楽をハイブリッドして確立された都市型の音楽にすぎない)。
また、アウトクトナの力強さ/アイデンティティを積極的に評価し、新たにアレンジして積極的にレコーディングを行ったのが、グルーポ・アイマラやルーパイ、コジャマルカ、ボリビアマンタなどのグループ。これらのグループは、カルカスなどのネオフォルクローレに対し、アウトクトナの代表的なアーティストとされているが、彼らの音楽はプロとして観賞用にアレンジした音楽を演奏している時点で、すでに「アウトクトナ」とは言えないともいえる。

※5
このアルバム、カルカスの当時の人気とレコード会社の期待が反映しているのか、なかなか豪華。ボリビアモノには滅多に存在しないジャケットの背表紙アリ。ボリビアものらしくなく、精神性を感じさせる美しいジャケット。カルカスを知らなくてもジャケ買いしそうなくらい美しい。裏表統一されたコンセプトだからこそ(←こんなことは80年代後半以降のボリビアにはありえない)。もちろん、これまた珍しい表裏両面カラー印刷(写真下)あってのことだ。さて、レコードを取り出そうとすると、レコードが包まれた紙袋にカルカスの写真と歌詞が印刷されている。さらには、カルカスのミニポスターまで封入されている。ボリビアの音楽産業事情をご存知の方にとっては、びっくりな力の入れようなのである。 




●POR UN SUEN~O DE AMOR

【アルバム・データ】
<LP>
"KJARKAS / Desde el alma de mi pueblo" (1981)
SLP-2184 DISCOS HERIBA (Bolivia)

01. POR UN SUEN~O DE AMOR (Chuntunqui)
02. CHULLPARA (Huayn~o)
03. SUNCH'U T'IKITAY (Huayn~o)
04. EN UN ABRIL (Cueca)
05. SACH'A MAYU (Choquelada)
06. DESDE EL ALMA DE MI PUEBLO (Huayn~o)
07. VIENTOS DEL SUR (Trote)
08. TIERRA DE NOSTALGIAS (Huayn~o)
09. K'ILLA KHOYLLU (Aire de Cueca)
10. PACHAKAMAC (Trote)

●なんでCD出てないんでしょうねえ…。


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