スウェーデンで時代を音にしてみた。……プカ・ワイラ
2010-02-18 Thu 23:39

【PUKAJ WAYRA / DON'T YOU STEAL! DON'T BE LAZY ! DON'T TELL LIES! 】(1981)


私の机には1枚の切り抜きが飾ってある。
まんまるウサギが一匹、画面からはみ出さんばかりというだけの木版画だ。
重戦車みたいな重量感。
真っ黒で大きなまんまるおメメ。
口元は一輪のクローバーをモグモグ。
図体ばかり大きくて何にも考えていないウサギのバカっぽいカワイサ単純すぎる迫力が素晴らしい。

さる小冊子の表紙に飾られたこの絵を見たとき、私は余りの迫力に目が離せなくなった。実はこの版画の作者はどこの馬の骨とも知れぬ小学生。

こんなバカっぽくて愛すべき力強さを描ける画家がどこにいる?
それ以来、その切り抜きは10数年、私の机上にあるわけだ。

●奇跡の1枚
そのときにしか作れない奇跡の傑作、というものが世の中にはある。
先の小学生も知恵が付く……というか、欲が生じれば、こんなバカな力を発揮することはないだろう。残念ながら。
きっと、後にも先にもこの1枚限りの大傑作なんじゃないのか。

音楽だって、音楽家やそれを取り巻く社会の変動の中で奇跡の1枚があってもおかしくない。


激走するチャランゴ、その上を走り抜けるビエントス、アルゼンチンチックなドラムス奏法で重低音を支えるボンボ。リズムの中を滑るように歌う、というより叫びぬけるベティ・ベイサガのヴォーカル。滅茶苦茶トガったサウンド

しかし、決してただそれだけの音楽ではなく、最初と最後の曲はトラディショナル全開の明るい音楽で全体をサンドイッチ。12曲中、7曲はインストであるにも関わらず、インストものにありがちなカラオケ的イメージは皆無。ジックリ聴かせる音楽も交え、強烈なドライヴのナンバーを引き立たせる構成もバッチリ。



プカ・ワイラ Pukaj Wayraが1981年に発表したLP "DON'T YOU STEAL! DON'T BE LAZY ! DON'T TELL LIES! (AMA SUA AMA QHELLA AMA LLULLA)" は、そのときにしか作れない「時代の鏡」とも言えるサウンドが収録された奇跡の1枚なのだ。

●「1980年」という時代が生んだアルバム
70年代前半は急速にロックが先鋭化した時代。
『サンタナIII』を聴いて見たまえ。聴いているだけでデーモン族に身体を乗っ取られそうな名演が目白押しなのだ。え?何でサンタナかって。シュミに決まってるでしょう! いいから、黙って聴きなさい。

だが、この時代のスゴさって、ロックが先鋭化してブイブイし始めたことだけなのか?
もちろん、それだけじゃない。アルバムの「曲順構成」という概念が一気に広がった時代でもあるのである。スピードチューンの次にスピードチューンでは聴き手側が不感症になって曲の持つ効果は半減。だから、スピードチューンはメロディアス・バラードの後ろに持ってくるとか。
先鋭化した音楽もこうして緩急をつければ、まるで起承転結や序破急の構成を持った物語のように息をもつかせず一気に聴かせることができるのである。

ところが、こうした曲順構成への取り組みが生まれ、さらにはこの試みがプログレッシヴ・ロックという壮大な世界にまで発展するに至ったにも関わらず、70年代後半に入るやファンク、テクノに代表されるディスコ・ミュージック隆盛の前にその姿はかすんでいく。
ロックの先鋭化・全盛期は数年~10年間くらいのことに過ぎないのだ。短けえ夢だったなァ……。

ところが、アンデス音楽は80年前後からロックの影響をもろに被り始めるのだ。こうしたロックやポップスの世界で起きた現象が同心円理論的に数年遅れて発生するのが、南米音楽世界の特徴だったりするのだ、実は。※1
80年代に入るや否や、『サンタナIII』の「春の祭典 Toussaint L'overture」なみにトガった演奏を繰り広げ、曲順構成にもこだわったアルバムも登場。
その1枚が今回ご紹介した "DON'T YOU STEAL! DON'T BE LAZY ! DON'T TELL LIES! (AMA SUA AMA QHELLA AMA LLULLA)" だ。

ウマいとか下手とかではなく、この時代ではなければ出せない音を楽しむ奇跡の1枚。※2、※3


●LIAQUIY WAYRA こっちはインスト。かっこいい。


●NOVIA SANTA CRUZ こっちはベティ・ベイサガのヴォーカル曲。かっこいい。

【注】
※1
70年代にプログレッシヴロックにムシカ・クリオージャとアウトクトナを配置したWARAの他、カルカスの1stや2ndなど、多少なりともロックに影響を受けたアンデス音楽は多いが、80年代以降、WARAはフュージョン、カルカスはオリジナルスタイルのポップスへと舵を切っていく。

※2
プカ・ワイラは、1977年にスウェーデンのストックホルムで結成されたボリビアのバンド。ヴォーカルのベティ・ベイサガは1980年に加入。このアルバムは、ベティを加入させてすぐに制作されたものである。当時、スウェーデンのABBAが世界中で喝采を浴び、各国でフォロワーを生み出すなど音楽の潮流に大きな影響を与えていた時期でもあり、スウェーデンはまさにポップス音楽の重要拠点でもあった。

※3
例えば、当サイトで既にご紹介し終わったわずかな音源だけでも、80年に入った直後のアルバムは刺激的。
コジャマルカのデビュー作、"kollamarka"は82年作。
カルカスの"canto a la mujer de mi pueblo" も82年作。この作品でカルカスは汎スペイン語圏全般で名を知られるヒットメーカーとなった。前年にリリースされた"Desde alma de mi pueblo" では、アルバム構成にロック的影響が強く見られる。
グルーポ・アイマラは全編アウトクトナのアルバムをリリースして世界ツアーに臨んだ後に、アルバム"Grupo aymara" をリリース。これも82年作。クリオージャとアウトクトナの表裏一体をA面・B面で表してみせた大傑作だ。


【アルバム・データ】
<LP>
"PUKAJ WAYRA / MUSIC FROM BOLIVIA
DON'T YOU STEAL! DON'T BE LAZY ! DON'T TELL LIES!
(AMA SUA AMA QHELLA AMA LLULLA)" (1981)
LYRICHORD DISCS - ESTADOS UNIDOS 7361 (U.S.A.)

01. PAQARIN
02. POTPOURRI DE BAILECITOS
03. INTI LAYA
04. LAQUIY WAYRA
05. AMA SUA AMA LLULLA
06. NOVIA SANTA CRUZ
07. CHISIMANTA
08. ACASO PORQUE TE QUIERO
09. CARACOLES
10. CHULLA
11. SOLO CANTANDO
12. DIABLADA

<CD>
"PUKAJ WAYRA / MUSIC FROM BOLIVIA
DON'T YOU STEAL! DON'T BE LAZY ! DON'T TELL LIES!
(AMA SUA AMA QHELLA AMA LLULLA)" (1991)
LYRICHORD DISCS LYRCD7361 (U.S.A.)


●アメリカではCDが発売以来、ずっと定番商品として入手可能。アメリカのAmazonでは常に新品在庫がストック状態である(日本のAmazonではないのが残念)。
●アメリカに注文するのがイヤ、という人もご安心。i-Tunes Storeでダウンロード販売されているので入手しやすい。



別窓 | PUKAJ WAYRA | コメント:0 | トラックバック:0 |
| これを聴け! |