ウァンカラが世界を滅ぼし、世界を創りたもうた。
2006-12-07 Thu 00:06

【HUANCARA / SKY'S MOTION ( El movimiento del Ciel ) 】(1989)

15年前、本屋で正体不明のCDに出会った。※1

購入の決め手は1曲目、"CUECA DEL APOCALIPSIS"。
おお、CUECAなんて(ある意味)地味~なリズムを1曲目に持ってくるか。
まあ、それなら「欧米に出稼ぎに来て、何となくノリでCD出しちゃった」みたいなストリート系の連中とは違うだろう。

家に帰ってジャケットをおもむろに開く。
どうやら「HUANCARA」は、アルゼンチンのコンフントらしい。
しかし、紙面は1ページ目から「ホロフォニクス録音」「神経生理学者ヒューゴ・ズッカレリ博士」(写真入り!)の解説。
最終ページはホロフォニクス録音CDの宣伝(もちろん写真入り!)。
アーティスト情報なんて誤訳だらけ。完全に脇役扱いだろ、この連中。

ところが、CDプレーヤーのPLAYボタンを押してブッ飛んだ。コッコレは。
まじめなフォルクローレファンなら「こんなクエカがあるか」などと目を剥いて怒りだすこと間違いなし。
幸い、私は不真面目きわまりない邪道ファン。
嬉々としてよだれを垂らすだけである。
しかし、クエカにしてはあまりに激しい。激しすぎる。
あわててタイトルを確認した。これまたふざけているとしか思えない。
クエカはクエカでも「 Cueca del Apocalipsis(黙示録のクエカ)」。
イカレてる。いや、イカしてる。
こんなクエカ、誰が踊るの? 踊れるの !?
ますます嬉しくなってくるゼ !!


"Cueca del Apocalipsis"

「ヨハネの黙示録」では、終末の予兆として七つのラッパが鳴り響く。
この曲もプトゥが鳴り響いた後の展開が怖いのなんの。
オラシオ・ストライヘルのパーカッションがうなるうなる。
これほどパーカッションが激しく自己主張するコンフントは初めてだ。
はっきり言って、ボンボだとかウァンカラだとかティンジャだとかいう以前の問題。
後半の曲になるともう「和太鼓じゃねえの?」とか「魔王が来るよー」なんて音なのだ。※2

全編、楽器の音はいちいち物凄く土臭い。しかし、思考形態はプログレかハードロックか、はたまたヘビメタか。スタジオライヴっぽい音場空間は、特異な土臭さ・雰囲気を醸し出すのに一役買ったか、気のせいか。
最終曲までヴォーカル一切なしでインスト勝負の大巨編。

終曲「pachakuty」なんてジョン・ケージもびっくり。
ノイズミュージックみたいな実験音楽が延々19分52秒
なんでこんな変な曲が最後に配置されるんだろう。※3
つくづくわからんアルバムだ……と思うでしょ?

ところがね。
わかっちゃうんだな。
今回のアルバム紹介の重要点はここからだ!

実は最近気付いたのだが、この「パチャクティ」というタイトルは、第9代インカの名前を意味していない。本来、ケチュア語で「pacha」は「空間と時間」を、「kuty」は「循環」を意味する言葉。つまり、「pacha + kuty」は「全世界が滅亡し、再生すること」を意味する言葉であり、年代記録にさんざん登場する概念なのだ。例えば、グアマン・ポマの記録では、既に5つの世界、つまり5つの太陽が交代するパチャクティがあったとされている。

要するにこのアルバム。
世界滅亡を知らせるラッパからスタートし、世界が再生するまでの黙示録世界を描いたコンセプチュアルアルバムなのだ。そう考えると、「パチャクティ」の直前の曲(M-9)「Milagro del Indio」の異様な荘厳さも理解できるではないか。この曲が黙示録のクライマックスである「救世主の復活」を意味することは想像に難くない。

ただし、ここでいう「奇跡(ミラグロ)」はイエスの復活ではないだろう。
地中に埋まったインカリ(インカ-レイ)の首から体が生え、いつの日にか復活し、新たな世界が訪れるとされた「インカリ神話」。アンデス中から報告されているこの救世主の復活を意味しているのではないだろうか。
そうでなきゃ「インディオの奇跡」なんてタイトルにはならんがな。キリスト教の音楽と違ってえらい暴力的な荘厳さだし。

そして、19分52秒にわたる果てしない混沌の末に新たな太陽世界が生まれるのだ。
耳を澄ませて聴いてごらん。
ほーら、このアルバムは、まさに「 tata inti(お天道さま)!」という叫び声で終わっているではないか!

そう考えれば、何ゆえ終曲のみが一種異様な雰囲気を醸し出しているのか納得がいく。旧世界の秩序がすべてなくなり、混沌の中から新たな世界が再生される過程を描くのだから、今まで通りのリズムやメロディなどに支配されていたのでは、何も描けないのだ。世界の終末と創造が3分で終わってもちょっとアレだし。

先住民の神話世界における混沌から創世までをも描こうとするとは。
スゴすぎる…。
こんな名盤が封印されているとは、あまりにももったいない話である。※4、5

【注】
※1 
オビについたタイトルは「ホロフォニクス/天空の舞い(スカイズ・モーション)」。たったこれだけの情報なら、当然スルーだったろう。ところが、ジャケットを見ると、何となくエスニカルな鳥の意匠と"HUANCARA"の文字が。んん? ウァンカラ? じゃあ、ボリビアのフォルクローレか? しかし、「ウァンカラ」なんていかにもアンデスな文字が踊っていながら、ジャケット写真は
なぜか、イグアスの滝。うーむ、謎だ。こうした不条理は怒っても仕方がない。前向きに笑うのが一番正しい。ウヒヒ。
さて、ジャケットを裏返して曲名を探れば、11曲目に「
Pachakuty」。インカ帝国に全盛期をもたらした第9代皇帝のことだと思ったのよ。この時は。じゃ、やはりボリビアかペルーあたりのフォルクローレかな、と。
ところが、オビのコピーには録音のことしか書いてない……というか、
アーティスト名がないよ! 

※2 
こんなのを聴いていたために、後にルス・デル・アンデの
ルイス・ギジェン「アンデス・ドラムス」を組んでいるのを見ても「だから何」の感はまぬがれなかった。もうパーカッションの可能性というか、表現力がはっきりいって全然違うのだ

※3
この曲に関してはチャンス・オペレーション(偶然性の音楽)の要素たっぷり。ただ、本文中にあるように、明確な意図のもとに演奏されている点でいうと、もっともチャンス・オペレーションとほど遠い音楽とも言えるのだが。とにかく、単にホロフォニクス効果だけを考えたオーディオマニア向けサービス用ナンバーという訳ではないのだ!

※4
ホロフォニクス録音は、いわゆるバイノーラル録音などの3D録音とは一線を画した録音技術である。しかし、現在ホロフォニクス録音の音源は
まったく販売されていない。また録音技術は当初より公開されておらず、録音済みの音源自体もこれから再販される見込みはほとんどないと思われる。この技術が隠蔽 ( ? ) され始めたのは、この技術が米軍の軍事技術へ転用されたためらしい。その経緯や詳しい内容については下記論文を参照。

http://www.23net.tv/xfsection+article.articleid+69.htm

※5(重要です!)
はっきりいって、現在アメリカのネット上で出回っているHUANCARAの他のアルバムは
購入しない方が良い。アルバム名をここで晒すことは控えるが、ココで紹介した数曲は別録音CDが存在する。しかし、「これが同じバンドか」と目を剥くほど演奏が違う。表現力も深みも何もない。途中で、いや、1曲目で飽きる。そこらへんにゴロゴロ転がっているありがちなフシオンバンドじゃねえか。いったい何なの?

【アルバム・データ】
<CD>
[ホロフォニクス/スカイズ・モーション](1991)
"HUANCARA / SKY'S MOTION ( El movimiento del Ciel )" (1989)
1991年11月8日初版発行
八幡書店 ISBN 4-89350-406-1 (※書籍扱い)

01. CUECA DEL APOCALIPSIS
02. BAJANDO DE LAS CUMBRES
03. BAILE DE LOS CARDONES
04. NUBE DE RAMAS
05. PIEDRAS BLANCAS DEL RIO
06. OJITOS DE AGUA
07. HUELLA DE PAJAROS
08. MURITA DE MADERA
09. MILAGRO DEL INDIO
10. PACHAKUTY

● オビにはCD番号らしきものがついているが、実際にケース、ジャケット、本体CDともにこの番号はついておらず、すべて上記ISBN番号。完全な書籍扱い。
●アラブのえらい王様が金にあかせてこのアルバムを復刻してくんないかな。ちゃんとしたジャケットで。


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