幻術師インカンテーション
2007-03-25 Sun 05:50

【 INCANTATION / ON THE WING OF A CONDOR 】(1982)

ガキの頃って、よく「ホンモノ」か「パッチモン」かってことが重要だったものである。
○手塚治虫漫画全集の雑誌広告の絵がビミョー、
「手塚の絵じゃない」→「ウソッコだ」とか。
○カードメンコにプリントされていたアトムの絵がビミョー、
「テレビの絵と違う」→「ウソッコだ」とか。

そのような「がっかり」は大人になっても往々にあるものだ。
○「フラメンコショーあります」のスペイン料理店へ。
 顔はのっぺり典型的日本人姉ちゃんがベニヤの上で「フラメンコ」
       ↓
「……(ウソッコだ)」※1とか。

○「ベリーダンスショーあります」のトルコ料理店へ。
 小太り典型的日本人姉ちゃんが「ベリーダンス」
       ↓
「……(ウソッコだ)」※2とか。

フォルクローレにしたって、それは同じこと。
欧米人や日本人がアンデス音楽を演奏したところで、しょせん真似事、しょせんウソッコ、しょせんコスプレ・パッチモンが違うのよ。が。

……という意識が働くのは当然のこと。

今回、ご紹介するインカンテーション。

(1)本場じゃない(全員イギリス人)※3
(2)全曲とも70年代フォルクローレのカバー

完璧だ。パッチモンの条件はそろった
じゃ、このアルバムを聴いてみよう。

……。
そう。血が何だ。カバーが何だ。
カバーがダメなら、クラシックはパッチモンばかりではないか。
フルトヴェングラーだろうが、カラヤンだろうが、チェリビダッケだろうが、ストコフスキーだろうが、バーンスタインだろうがみんなカバーしまくりじゃねえか !! ※4

もちろん、カバー、リメイクというものは、ムヤミにただやればいいというものではない。じゃあ、どういう条件のときやればよいのか。
諸君は、世間や評論家が20年前あるいは30年前の映画を「名作だ」と讃えるので見てみたら(むむ…それほどのものか?)と肩すかしを喰らったことはないか?

クリムゾン世代でない私が、いまだに名作『クリムゾン・キングの宮殿』をあまりよく理解できないのと同じなのだ。
当時は革新的なサウンドだったんだろうな、きっと。
てな感じなのだ。※5

当時の人たちが感じたであろう驚きや興奮は、もうそれが当たり前になった我々にはわからないということが、往々にしてあるものなのだ。※6

そこでインカンテーションだ。


"Cacharpaya"

70年代のフォルクローレナンバーが本来持っているサウンドの魅力を最大限まで引き出す!!
フォルクローレのサウンドを自分たちなりに解釈。
コピーであるかのようなフリをしながら、実は大迫力のアレンジを施し、ピッチを整え、卓越したテクニックで再現。優れたレコーディングを行う。※7

めくるめくような繰り返しのメロディリズムが乱舞するトランス系ダンスチューン。
地面が揺れるような激しいアタック音の重低音サンポーニャ。
きらめくようなチャランゴとギターの魅力。
70年代に感じたカッコよさ/めくるめく魅力がはっきりとクリアになって再生されたような効果があった。

私なんか、高校生のとき、M-3→M-4→M-5→M-6(国内盤)というあまりにカッコいいノリとハイテンションな演奏に興奮のあまり、体中でドタバタとリズムを取ってしまい、家族からやかましいとクレームが出たほどだ。

インカンテーションの音楽は、世界的なフォルクローレブームと無縁だった英国では、新鮮きわまりない「新しい」サウンドとして紹介され、たちまち熱狂的に受け入れられた。
82年の本デヴュー盤は英国で30万枚以上のベストセラーを記録。6ヶ月にわたって英国チャートトップ10の位置にあり続けたというから、フォルクローレ史上最大のヒット作であろう。
以来、2nd、3rdと名盤を生み出した。※8

大事なのは、ただ単に「好きだからマネしてみた」ではなく、自分がその対象の何に魅力を感じたのかを良く分析して抽出し、それをより強く表現しようとするチカラである。アレンジから演奏から録音技術からすべてをその一点にぶつけるコンセプト力である。
たしかに楽曲はすべてコピーかもしれない。
であるとしても、アルバムの目的は完全にオリジナルな動機から生まれたものなのである。

パッチモン、ウソッコと判断するのは早計ということだ。

【注】
※1
心の声。

※2
それは、ほら、あれ、大人だから。

※3
日本人から見ると「英国人」なのだが、BBCのテレビ番組で出自を尋ねられて、「スコットランド人だよ」(一同笑)と答えてるメンバー(誰だ?)もいたりして、さすが英国。このことが4thアルバム以降の動向に大きく影響を及ぼしたりする。それについては後日。 

※4 
ストコフスキーはオリジナルっていってもよかったりして(笑)

※5 
ピンクフロイドから入ったのが悪かったんでしょうか。

※6 
これは時間差による文化的隔たりの例。しかし、例を挙げて説明しにくかったので時間差のみで説明したが、空間/距離による文化の違いも重大だ。むしろ、そういう問題の方が大きいかも。

※7
ちなみに、インカンテーションのアルバムはリリースされるたびに、『STEREO』誌でその年の最優秀録音盤に選定されていた。

※8
このアルバムと同じサウンド志向は初期3部作まで(4th発売までの間に、その年だけで12万5000枚のセールスを記録したベスト盤と1stの別ヴァージョン盤をリリースしている)。
オリジナルとしては4thにあたる「THE MEETING」という大傑作を発表した後、インカンテーションは方向性を大転換し始める。詳しくは後日。



【アルバム・データ】
<LP>
"INCANTATION / ON THE WING OF A CONDOR" (1982)
656 040 BEGGARS BANQUET (UK)

01. On The Wing Of A Condor
02. Sonccuiman
03. Sikuriadas
04. High Flying Bird
05. Dolencias
06. Winds On The Mountain
07. Amores Hallaras
08. El Pajaro Madrugador (Angel Parra)
09. Papel De Plata
10. The Condor Dance
11. Cacharpaya
12. Friends Of The Andes

<CD>
「インカの幻想~コンドルの翼に乗って/インカンテーション」(1987)
30CP-19 テイチクOVERSEAS RECORDS(国内盤)

01. On The Wing Of A Condor
02. Sonccuiman
03. Papel De Plata
04. The Condor Dance
05. Cacharpaya
06. Friends Of The Andes
07. Amores Hallaras
08. El Pajaro Madrugador (Angel Parra)
09. Sikuriadas
10. High Flying Bird
11. Dolencias
12. Winds On The Mountain

● 英国・国内ともに廃盤。92年にテイチクから廉価版(TECX-25221)が再販されたが、これも廃盤。ただ、国内でも売れた盤だけあり、オークションなどにたびたび出品される。
●ただし、英国盤と国内盤は曲順が違うので、注意。


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コメント
-ありがとうございます!-
初めまして、今晩は。
先程はありがとうございました。
勉強になりました。
彼らはつい最近迄活動していたのですね!
早速アマゾンなどで確認します。
2008-06-01 Sun 01:58 | URL | 千子村正 #-[ 内容変更]
-これは-
千子村正さん

わざわざ有り難うございます!

ただ、正直コロムビア盤はお勧めしていいのか……。
少なくとも、95年盤『インカンテイション』
(「インカンテーション」ではない)はフォルクローレではないのです。

いや、そうじゃなくても面白ければよいのですが、
私のハートにはあまり響かない(^^;)

2人組になってからのインカンテーションは
以前のインカンテーションとは別物と思って
いただいた方がよいと思います(笑)
2008-06-01 Sun 02:32 | URL | もち #k1XqQM6k[ 内容変更]
--
はじめまして。

私の手元にあるのは92年盤なのですが、この解説によると、「On The Wing of A Condor」と「The Condor Dance」についてはインカンテーションのオリジナル作品となっています。
「全曲カバー」の記述がちょっとひっかかったので少しコメントさせていただきました。
2010-10-13 Wed 21:45 | URL | Michi Yana #-[ 内容変更]
-ご指摘有り難うございます!-
Michi Yanaさん、はじめまして。
ようこそいらっしゃいました!
どうぞ、よろしくおねがいいたします!

さて、私は原盤か80年代にリリースされた当時のものしか持っておりませんので、
再発盤の解説は読んでいないのですが、実は「On the wing of a condor」は
「Ojos Azules」という結構古典的な曲です。
ハイメ・トーレスをはじめとして色々な方が録音を残していらっしゃいます。

95年には2人組に解体してフォルクをやめた新生インカンテーションが
もとのタイトルに直して再録音し、
「伝承曲:アルゼンチン北西部のウマウァカ渓谷の古歌」としています。

ほとんどが懐かしの曲といった中で、「The condor dance」に関しては
確かに私もインカンテーションより前の録音は聞いたことがないような……?

ただ、アルバムの著作権は "All titles Trad. Arr. Incantation"となっています。

この世界ではwayayayやsaririでさえ
「作者不詳」「伝承曲」にして録音されるのが日常茶飯事ですので、
他人の曲の著作権を気にしないことはあっても、
自作を「伝承曲」として著作権放棄してしまうのは
ちょっと考えにくいのでは……という憶測が
全曲カバーと書いてしまった原因ですね……。
申し訳ありませんでした!

どなたか、ご存知の方教えてください。
2010-10-14 Thu 00:30 | URL | もち #-[ 内容変更]
-INCANTATIONについて-
はじめまして。
INCANTATIONの"コンドルは飛んでいく"でフォルクローレ好きになったまさると申します。

The Meetingまでは買ったのですが、その後の彼らの消息が全然分からず困ってます。
二人組になってからはどのようになってしまったのでしょうか?
教えていただけると幸いです。
2012-02-18 Sat 02:02 | URL | まさる #mQop/nM.[ 内容変更]
-その後のインカンテーション-
>まさるさん

ようこそ初めまして!
私もすべてを確認している訳ではないのですが、
ベスト盤以外のリリースに限定すると、
"The Meeting"以降のものとして、

1)"Gentle on the Rock"(92)
2)"Sergent Early Dream/Ghost Dance"(94)
3)"Songs for All Seasons"(94)
4)"Incantation"(95)

以上、4枚のオリジナル・アルバムのリリースを確認しています。
その他にもIncantationのアルバムは出ていますが、
ミックスダウン変更はあるにしても、基本的にベスト盤とみて良いでしょう
(※「Panpipes of the Andes」は86年リリースの新録音)。

ちなみに、このうち1)はiTunesでダウンロード購入が気軽に出来ますが、
その前にしっかり試聴することをお勧めします。サウンドの変化が著しいからです。
http://itunes.apple.com/jp/album/on-gentle-rocks/id308341383

2)は、国内盤のライナーノーツからすでにお気づきと思いますが、
彼らがインカンテーションを組んだ契機となったランバード・ダンス・カンパニーの
『ゴースト・ダンス』の再演録音なのです。
ここで重要なのは『サージェント・アーリーズ・ドリーム』も
INCANTATION WITH SERGENT EARLY BAND 名義で演奏されている点です。
これは全編アイリッシュですので、いわゆる世間で言う「フォルクローレ」ではありません
(もちろん、これこそ本当の意味で「彼らのフォルクローレ」ではありますが)。
http://www.youtube.com/watch?v=3_QmglUZbQA&feature=related

3)はあいにく持っていないのですが、クリスチャン・ナンバー集。
ボリビアのビジャンシーコのようなものではなく、アメリカやイギリスで良く聴かれる
クリスマスキャロルなどのアルバムのようです。

4)は日本でも国内盤がリリースされた唯一のアルバム。
ルーマニアやキューバなど各地から着想を得た上で「現代的」「軽やかな」アレンジで。
今ままでのIncantationを期待すると、ちょっと肩すかしを食らうかもしれませんので、
「違うバンドなんだ」と、考えるべきかも。

ところでインカンテーションが参加した86年の映画『ミッション』はご覧になりましたか?
 エンニオ・モリコーネのスコアの素晴らしさが評価されてアカデミー作曲賞に
ノミネートされたこともあって、インカンテーションはこれ以降映画の仕事を
一気に増やしています。
一時期ハリウッドで急激に増えた効果音的にサンポーニャ音やパーカッション類が
挿入されるサントラはインカンテーションの可能性があります
(「パトリオットゲーム」や「フィールド・オブ・ドリームス」など)。

マイク・テイラーはサウンドトラック界に、
トニー・ヒンニガンはマイケル・ナイマンのバンドに加入し
チェロ奏者として活躍しています。
ヒンニガンにも映画の活動は多く、
「ピアノ・レッスン」でマイケル・ナイマンのバンドメンバーとして来日したり、
「タイタニック」でアイリッシュ・ホルンを吹いたりしてるようです。

ただ、インカンテーションは解散とは言わないまでも、
明らかに失速して以来、過去のものとなりつつあるようですが、
ソロ名義で活動するより通りがいいことも事実なようで、
ヒンニガンが担当した映画音楽ばかりをコンパイルしたアルバム
「Camera-Reflections on Film Music」はINCANTATION名義で
リリースされています(INCANTATIONの下に小さくTONY HINNIGANとあるw)。
2012-02-18 Sat 21:38 | URL | もち #-[ 内容変更]
-情報ありがとうございました-
すっかりお礼が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

"ミッション"は見たことがないんですが"The Meeting"に入っていたので曲は聴いたことがあります。

やっぱり、失速してたんですねぇ...ちょっと残念。
と言いつつ、この前中古ですが、太陽の乙女たちを買ってしまいました。
彼らのアルバムは、比較的手に入りやすいですね。

情報ありがとうございました。
2012-03-18 Sun 11:50 | URL | まさる #mQop/nM.[ 内容変更]
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