カルカス・日本から愛を込めて
2009-06-02 Tue 13:44

【 KJARKAS / ESPERANZAS(カルカス/エスペランサ) 】(1985)

何てことだ。
気持ちが全く盛り上がらない。
18年ぶりにあのカルカス来日するという大事件のはずなのに。
埼玉公演を明日に控えているというのに。
何とチケットを購入したのは1週間前

全盛期には、それこそ24時間毎分毎秒カルカスのことしか考えていない状態だったのに。
カルカスTシャツでも作りかねない状態だったのに。
クルマにカルカスのロゴを入れて、カルカスずんどこでカッ飛ばしかねない状態だったのに。
オムライスの上にケチャップで「カルカス♡」って書きかねない状態だったのに。
カルカスマニアを自認してたのに。
これでは自認というより辞任である。自刃である。介錯つかまつる。

理由はわかっている。
ウリセスの死後、10数年間。
心を揺さぶられたアルバムが全くないのだ。

サンタナなどラテンロックの魅力。それはこんな風にもいわれる。
「一歩間違えると演歌的ダサさ紙一重というカッコよさ」。
ギリギリで踏みとどまっている音のカッコよさ!
一方、ウリセスという羅針盤を失ったカルカスは、踏みとどまるどころか、全力であっちの世界に踏み込んでいった……。

ということで、来日記念カルカス祭りである。
失われし偉大なる第2期カルカスを偲び、全盛期の名盤を彼らが帰国する前に何点かとりあげることにしたい。

今回は85年に日本で制作・録音・リリースされたアルバム『エスペランサ』。
ボリビアでは『LOS KJARKAS DESDE EL JAPON』としてリリースされた。

このアルバムの名盤たるゆえんは、アレンジや楽曲作りに試行錯誤を続ける「新しい音」が聴ける時期の作品だから。※1
カルカス第2期(2006 2/7「カルカス登場!」参照)ウリセス節が9割9分9厘完成し、その充実度たるや波動エネルギー充填120パーセント。いつでも波動砲発射準備完了とでもいうべき状態。

●ケナーチョ(低音ケーナ)がメロディを歌うM-5は、リズムセクションなし。南米音楽に絶対不可欠なパーカッションはおろか、ギターやチャランゴのカッティングさえも排するところが徹底している。ところが最後の30秒で劇的にパーカッションが登場。トゥパック・カタリの悲劇的な最期を描き出す。しかも、それがボンボでもウァンカラでもボンゴでもカホンでもなくティンパニなのである。

●M-6は迫力あるアイレ・デ・クエカ。クエカをトローテやカルナバルのように劇的に演奏し、サビで
0コンマ数秒の沈黙にギターのベース弦だけをはじくカッコよさ。

●M-8鳥の声の中をチャランゴやロンロコのアルペジオ、そしてケーナがサンポーニャ、ボンボが重なっていく。ホールで録音されたかのような美しいエコー残量も計算されつくされており、余韻たっぷりに消えていく。最後に残るのは鳥たちの遠くの声。

●M-10は、チャランゴの中をサンポーニャの迫力で聴かせるE.カブールの「レーニョ・ベルデ」を彷彿とさせるスピードチューン。しかし、スラッシュメタルのようなボンボといい、途中でケーナの流麗なサウンドをインサートする構成といい、ここまで来たかと唸らせる。※3

●M-3は音楽的にも内容的にもボリビア版の「EL HUMAHUAQUEN~O」。ゴンサロは来日せず、楽曲もほとんどがウリセスによる新しいスタイルのナンバーによる制作で、新しすぎてもオーディエンスがついてこられるよう(?)、珍しく採譜モノ。


アルゼンチンで制作された6th『SOL DE LOS ANDES』。
日本で制作された8th『ESPERANZAS』。
この2枚は初期カルカスの実験作である4th『DESDE ALMA DE MI PUEBLO』の方向性をさらに追求、別ジャンルや海外のセンスを貪欲に取り入れて新たなサウンドを構築することに成功した2枚なのである(2006 10/9「アンデスの太陽」参照)。静謐たる力の『SOL DE LOS ANDES』に対して躍動の『ESPERANZAS』、いずれも今までにはない工夫に満ちた大傑作である。※2

この後のカルカスのサウンドは、安定した熟成期に入っていく。
その様たるや遣唐使を廃止した後に開花する国風文化のごとし。
そういう意味でいわば「若きカルカス」の記念碑ともいえるアルバムなのである。


【注】
1
日本盤オビに書かれたコピーは「全世界発売決定!! フォルクローレ界の頂点カルカスの最新盤は日本録音。この1枚に現在を生きるフォルクローレの全てがある。」最後の一文は、なかなかこのアルバムの核心を突いている。


録音の精度もアルバムの出来に大きく影響する。たとえ優れた楽曲を作成し、優れた演奏をしてみても、それを活かした録音が出来なければ、魅力は半減どころか耳障りになる可能性すらある。それまでのボリビア盤は、低音や高音の収録音域が極端に狭かった。そのため、低音域はスカスカ、ボンボや低音ギターなどのベース音がほとんど聞こえない。高音域はつまってこもった花粉症状態。チャランゴは耳障りな針金の音にしか聞こえない録音も多かった。当時、デジタル化が最も早かったクラシックでさえジャケットに華々しく「DIGITAL RECORDING」と謳われた時代。そんな時代に、カルカスの音質を十分理解してのデジタル・マスタリングだった。アコースティックな音源であるが故に、効果はてきめん。これだけチャランゴのクリアな高音が美しく、ボンボ、ギターの低音やアンサンブルが力強いボリビア音楽のアルバムは初めてといってよかった。

3
日本語解説ではカルカスから聞いた内容として、「ILLAPSとはコチャバンバ近郊の村の名前」としている。ただ、曲調から想像するに「ILLAPAS」とは、この場合はケチュア語の「雷」もしくは「雷神」を指し、ILLAPASという言葉は「コチャバンバ近郊の村の名前」にもなっていますよー、ぐらいにとらえた方が良いような気がする。あ、このサイトのモットーは独断(笑)




"Muchacha Ojos Tristes"


【アルバム・データ】
<LP>
"KJARKAS / ESPERANZAS(カルカス/エスペランサ)" (1985)
POLYDOR (JAPON)
28MM0467

01. JIYAWAY SAMBITA
02. ESPERANZAS
03. VIVA COCHABAMBA
04. K'OYA MAMAY
05. TUPAC KATARI
06. MUCHACHA OJOS TRISTES
07. PEQUN~A AYMARITA
08. MARIA AMANECER
09. ALBORADA DE AMOR
10. ILLAPAS

<LP>
"KJARKAS / LOS KJARKAS DESDE EL JAPON" (1985)
LAURO (BOLIVIA)
BO/LRL-1517

<CD>
"KJARKAS / DESDE EL JAPON" (2003)
LAURO (BOLIVIA)
LCD-0319


● CDはボリビア盤より10年近く前からペルーIEMPSAレーベルがリイシューしている(C.D.91150152)。
●このような名盤、しかもカルカスであるにも関わらず、ボリビア盤はCD-Rであるとの噂。

関連記事
別窓 | KJARKAS | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<このときカルカスは頂点に立ったのだ | これを聴け! | 田舎へ行ってかほりを嗅ごう!……アヨパヤマンタ>>
コメント
コメントの投稿














管理者だけに閲覧

トラックバック
トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
| これを聴け! |