チェンバー?ジャズ?プログレ?フォルク?いいや、アナクルサ!
2013-12-09 Mon 23:20

【ANACRUSA /El Sacrificio】(1978)

様々なジャンルをクロスオーバーさせ、早くから自由な音づくりを続けてきたアルゼンチン・フォルクローレ。アナクルサAnacrusa は、その歴史を語るうえで絶対欠かすことの出来ない存在である。

アルゼンチンで制作された前作3rd『AnacrusaIII』('75)では、チャブーカ・グランダのマリネラやバルス・ペルアーノの名曲をカバーするなど、彼らのアルバムの印象はまだアーバン・フォルクローレといった感が強かった※1。しかし、パリに拠点を移してつくられた本作の4th『El Sacrifisio』('78)からは、クロスオーバーなプログレッシブ・ロックとして高い評価を受けることになる。日本の辺境プログレファンの支持も熱烈だ。彼らは叙情的なフォルクローレとロックを融合させた独自のバンドとしてアルゼンチンロック史上に燦然と名を残すことになったのだ。

●30年以上ジャンル分けを拒み続けたオリジナルな音
ただ、その独特のサウンドは言葉でどう説明すべきか、非常に難しいのだ。各ショップやレビューの表現も千差万別。「叙情性たっぷりのプログレ」から「映画音楽のよう」「フォルクローレをベースとした」「ジャズロック」「クラシカルジャズ」に至るまで、それぞれに目を通せば通す程、わけが分からない

しかし、一聴すればそれも宜なるかな。基本はベース、ピアノ、サックス、フルート、アコギ、ドラムス、その上にストリングス。場合によって、シンセサイザー、エレキギター、ボンボにチャランゴ、ケーナ、さらにはバンドネオンまでがからみ、表情が変わる変わる。ラウンドジャズのようなサウンドでありながら、構築されたドラマチックさはプログレ色。しかも、リズム・形式はビダーラ、チャカレーラ、カルナバル、チャージャなど確実にフォルクローレをベースとしている。これでは一言で言い表せないし、そういったジャンルを聞きかじったことのない人には、言葉での表現も難しかろう※2

さて、この独特なサウンド成立のヒントは5曲目のタンゴ、「Homenaje a Waldo」にあると私は考えている。そもそも、このアルバム、「序曲」から始まって最後は「終曲」と副題がふられている通り、コンセプト性を全面に打ち出したアルバムである。各タイトルは「カピアンゴ」※2「火の太陽」など、アンデスの伝説的モチーフが並ぶのに、いきなりの「ワルドに捧ぐ」なのである。そもそもワルドって誰のことだ?

●アナクルサ・サウンドのキーワード
「ワルド」といえば、アルゼンチンが誇るあの世界的作曲家ワルド・デ・リオスのことに違いあるまい。

ワルド・デ・リオスは既存のクラシック名曲にギターやドラムスでリズムを与え、コンテンポラリーなポップスとしてヒットチャートに乗せるという革命を起こした人物。ことにオランダでは、モーツァルトの作品40番がチャート1位を獲得、彼の音楽は世界を驚かせた。改めてこうした手法でヒットが成立することがわかると、ポール・モーリアやレイモン・ルフェーブルが追随、後に「イージーリスニング」といわれる分野が形成されていく。この時代、まさにこれは「新しい音楽」だったのである。

ワルド・デ・リオスは1977年にピストル自殺を遂げてしまうのだが、このアルバムのリリースが翌78年であることから見ても、この推測でほぼ間違いはないだろう。

確かにアナクルサのサウンドからはミシェル・ルグランの映画音楽やラウンジ・ミュージックのようなアレンジと共通するものを感じさせるところがあるが、もしかすると別ジャンル同士のクロスオーバー革命を成し遂げたワルド・デ・リオスの影響があるのかもしれない。少なくとも、同じ指向性があったのは間違いないだろう。

メンバーはごちゃまぜ状態
前衛音楽をしていたルベン・イサルアルデ、
国立交響楽団のオーボエ奏者でもあったクラシック畑のブルーノ・ピサミリオ、
国立音楽院出身でありながら、アンデス楽器をこなしてヴォーカルをとるスサーナ・ラゴ、
ロック版「ミサ・クリオージャ」で有名なバンド、ゴリオンのメンバーだったキケ・アルバラード、
ジャズ畑出身のドラムス奏者、フアン・カルロス・リカリ、
作曲/アレンジャーとして優れた才能を発揮するリーダーのホセ・カスティニェイラ・デ・ディオス。
これでは、ほっといても必然的にハイブリッドなスタイルになったのであろうが、クラシックとポップスのハイブリッドで世界的に成功した先達の存在は、彼らにとって大きな自信となっていたに違いない。

伝統のリズム、形式、パターンに立脚しながらも、天井知らずの自由な表現。一見すると矛盾するこの表現、聴いてみればすぐにわかる。最終曲は13分に及ぶ大曲「アナクルサのテーマ」。「胸をかきむしるような叙情的メロディ」などといわれる彼らのサウンドだが、それだけではすまないことがすぐにわかるはずだ。

ワルド・デ・リオスに捧げられているといっても過言ではないこのアルバムは、それまでにアルゼンチンでリリースされた3枚のアルバムを叩き台に、よりプログレッシブに変化した。このアルバムのパイロット版とも言える「III」(かぶっているナンバーが2曲もある!)を大きく飛び越え、アルゼンチンの傑作というよりは、ジャンルを超越した世界的傑作となったのである。


●「El sacrificio」も「Quien bien quiere」も削除されてしまったようなので、「Tema de Anacrusa」を。


【'14/12/1追加】
実は今日、ワルド・デ・ロス・リオスのフォルクローレアルバム(74年日本コロムビア盤)の存在を知った。LP盤の片面をチャカレーラ、ビダーラ、チャージャのわずか3曲だけ(!)で持たせているあたりから考えても、オーケストラとフォルクローレを有機的に融合させて新しい息吹を生み出そうとしていたのが伺える。これで、アナクルサにとってワルドが重要な存在であったことは間違いないのではなかろうか。

●Waldo de los Ríos - Concierto Folklórico ……上記のLPとは関係ないが、彼のフォルクローレを(※3時間あります!)。


【注】
1
3rdアルバムは、1978年に邦盤がリリースされているが、その時の販売ジャンル分けは「フォルクローレ」だった。ライナーノーツでは濱田滋郎氏(!)が、このような新しいスタイルのフォルクローレが生み出されても「彼らの演じるホロポはあくまでホロポ、マリネーラはマリネーラ、ビダーラはビダーラにほかなりません。伝統はけっして"形"ではなく、"心"にあるのです」との説明をされている。ちなみに、帯のコピーは「フォルクローレのグローバルな地平を切り拓くアルゼンチンの新しい才能と幻想の世界‼︎」。

2
そもそも1stアルバム(1973)では、ジャケットから受ける印象自体がいかにも「ど」フォルクローレだ。超定番の楽器並べジャケなのである。


3
カピアンゴとは、グアラニー神話に起源を持つ伝説上のジャガー人。夜になるとジャガーと化して農場を襲うと信じられていた。人の時は黒人の姿をしているとも言われ、死ぬと人間の姿に戻ると考えられた。


【アルバム・データ】
〈LP〉
"ANACRUSA / El Sacrificio" ‎(1978)
Philips 9101 177 (France)

01. El Pozo de Los Vientos
02. El Sacrificio
03. Sol de Fuego
04. Quien Bien Quiere
05. Homenaje A Waldo
06. Los Capiangos
07. Tema de Anacrusa

〈CD〉
"ANACRUSA / El Sacrificio" ‎(2003)
Ediciones Rayuela-072 "Historia De La Musica Argentina" (Argentina)

01. El Pozo de Los Vientos
02. El Sacrificio
03. Sol de Fuego
04. Quien Bien Quiere
05. Homenaje A Waldo
06. Los Capiangos
07. Tema de Anacrusa
08. Los Capiangos (En Vivo En Buenos Aires - 1975)

●実は5th"Fuerza"の方が完成度が高いという方も多いかと思うが、アルゼンチンフォルクローレ史的な意味合いと、アルバム完成度における序曲〜最終曲にいたる流れ、3rdからのいきなりの飛躍っぷりから考えて、このアルバムこそ歴史的な転換点と判断した。

●2003年にリイシューされたCDが、カケハシレコードやGARDEN SHEDなどのプログレ専門店で購入できる(ボーナストラック付き)。

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